ライトラインと乗用車の接触事故は2024年5月時点で6件起きており、すべて物損事故です。幸いにも人身事故は起きていませんが、再発予防のために事故状況を振り返りましょう。
1件目:右折禁止場所で右折・逆走
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【時刻】2023年9月1日 午前11時50分頃
【場所】清原地区市民センター前電停から西に約100m
【状況】軌道南側の市道から右折した際に、50代男性が運転する乗用車がLRTと接触
【被害】LRT車両の一部に傷。運転手、乗客70人にけが人なし
乗用車が右折禁止の場所で、後方未確認で右折をしてしまいライトライン車両に接触する事故でした。この事故の問題点はもう一つあって、右折した先はそもそも出口専用道路なので、乗用車が逆走した結果起きています。その後、対策として乗用車が逆走しないように、標識の表記が追加されました。
2件目:信号無視し、軌道内に侵入
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【時刻】2023年9月5日 午後0時10分頃
【場所】ライトキューブ東側の交差点
【状況】76歳女性の運転する乗用車が信号無視し、LRT専用軌道内に侵入し接触
【被害】乗用車は右前部分を損傷。LRTは一部に擦過による傷。乗客、運転手にけが人なし。
シンプルに高齢女性の信号無視による接触です。タイミングが悪ければ大事故に繋がっていた可能性もあります。
この事故の怖い所は事故後に女性が「信号を見誤ってしまった。車から線路が見えず、LRTに気付かなかった」と信号も線路も認知していない点です。日中なので、決して視界が悪い状況ではありません。このような危険な運転を普段からしているようであれば、運転免許を返納するべきでしょう。
宇都宮駅近くで起きた事故のため、多くの通行者の目に入りました。明らかに乗用車側の危険運転が原因です。ライトライン側としてはもらい事故で避けようがなかったのですが、開業10日目で2回目の事故であったため、LRTに批判的な意見もSNSでは多く挙がっていました。
この事件を受けて栃木県警と宇都宮市は同月8日に緊急対策会議を実施し、11日には交通ルール周知の広報活動を実施しています。しかし、それでも事故は続いてしまうのでした。
3件目:右折待機中の車のミラーが接触
【時刻】2023年9月17日 午後2時45分
【場所】ベルモール北側交差点の右折レーン
【状況】乗用車が右折待ちの列の最後尾に停車中に乗用車の左側面と車の右側のミラーが接触。
【被害】運転手、乗客約160人にけが人なし。
右折待ちの乗用車はこの時ゼブラゾーンで待機していたのですが、大きく右によって停車していたためライトライン車両にミラーが接触してしまった事故です。ゼブラゾーン内で少し右に寄っただけでは接触することはないため、大きく右に寄っていたものと思われます。
軌道内に入ってしまった乗用車側に非があるのですが、SNS上ではLRT側は警笛を鳴らすべきだった等の意見がありました。この後対策が取られ、車道と軌道の間にポールが設置されたのですが、通常の路面電車では不要なものです。慣れてない市民のために特別に設置されたものとなります。
4件目:信号無視・Uターンした車が接触
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【時刻】2023年10月31日 午後9時35分頃
【場所】陽東3丁目交差点付近
【状況】50歳代男性が運転する乗用車がUターンしようとして軌道内に進入し、直進してきたLRTと衝突
【被害】乗用車運転席側のドア、LRT先頭車両前部が破損。乗客70人にけが人なし。
9月に3件の接触事故が起きた後だったので、10月は無事故が期待されていましたが、最終日に事故が起きてしまいました。初めての夜間の接触事故です。
ライトラインは沿線に電灯が設置されており、視認性は良いのですがUターン時の接触ということはドライバーの後方確認不足でしょうか。
そもそもLRTが直進していることから察するに、この間右折レーンに右折を許可する緑矢印は出ていないはずです。事故状況の詳細を確認したところ、やはり乗用車側が信号無視をしていました。
この件に関しては栃木県警交通課の湯浅課長補佐からもコメントが出ているので、一部紹介します。
「交差点内で右折時に路面電車が後方からきているか必ず視認する」というものがありますが、通常の右折時には必要のない行為なので、省いてしまうドライバーがいても不思議ではない。ただし、信号機をしっかり守って走れば基本的に問題はなく、4件目の事故も起きずに済んだわけです。(JAF Mate 2024春号p.29より引用)
ライトラインは路面電車に慣れていない沿線住民に配慮して、基本的に信号を守って走行していればLRTと接触することはないようにできています。乗用車が軌道内に侵入しない限り、事故は基本的に起きることはありません。3~5件目の事故の詳細は下記のJAF Mateに掲載されていますので、ぜひ機会がありましたらご確認ください。
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5件目:左折時にミラーが軌道内に侵入
【時刻】2023年12月29日午前6時10分
【場所】清原工業団地
【状況】60代男性が運転する大型トラックが交差点で左折時に左サイドミラーとLRT車両左側面が接触
【被害】運転手にけがなし。乗客がいなかったためけが人なし。
大型トラックとLRTでの事故で一歩間違えば大惨事になっていた可能性もあります。早朝の上り便のため乗客がいなかったことが幸いでした。左折しようとしたトラックが軌道手前で停止したはずが、左側サイドミラーが軌道内に入ってしまっていたためLRTと接触しています。運転手が県外の方のため、不慣れな場所であったことも事故の1つの原因かもしれません。
この場所は信号がありませんが、LRTが接近時に音とパトランプで警告する「接近表示器」が設置されています。大事故にならなくて本当に良かったです。
(NEW)6件目:信号無視で直進し、軌道内に侵入
【時刻】2024年5月10日 午後7時10分
【場所】ライトキューブ東側の交差点
【状況】県外ナンバーの30代男性が運転する軽自動車が交差点を信号無視して直進。LRT車両側面に衝突後に横転。
【被害】双方の運転手と乗客70人にけがなし。
事故現場は2件目の事故と同じ場所です。今回も自動車側が直進方向への進行矢印が出ていない状態で、信号無視をして直進したとのことです。5件目に続き県外ナンバーの接触事故となります。
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左折レーンが2車線、直進レーンが1車線あり道路中央にはポールが立てられており車線がしっかりと分けられている交差点です。記事を見てわかるように今回の事故の際も写真のように直進の矢印は出ていませんでした。では、なぜ赤信号を無視してしまったのでしょうか。
記事のドライバーの証言で「標識を見て、赤信号でも直進できる道路だと間違えた」との発言がありますが、これは道路右側に設置されている標識のことでしょう。
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これはLRTの軌道が前方にあることを示すと同時に直進のみ可能で、右折はできないことを示しています。ここを誤って右折してしまい軌道内に侵入してしまった事例が過去にあったためです。その際は幸いにも事故には至らなかったものの、LRTに遅延が発生してしまいました。そのため標識で直進しかできない旨を強調表示しています。少なくとも赤信号で直進を許可する標識ではないことは一目瞭然です。
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標識の理解ができなかったことも問題ですが、信号無視した上に横転するほどの速度で車両に衝突するというドライバーの不注意が招いた事故でした。幸いにもドライバー・乗客にケガはなかったのですが相手が歩行者であれば大変な事故になっていたことでしょう。
該当交差点の直進を禁止すべきか
ここの交差点で2度事故が起きています。駅東口のロータリー出口なので、直進を禁止すればいいと思う方ももしかしたらいるかもしれません。ただ、ここの交差点は非常に重要な救急車の搬送ルートになっています。特に宇都宮駅東口の北側に位置する中今泉・元今泉地区の一部では宇都宮脳脊髄センター・シンフォニー病院への搬送する時間を短縮できるメリットがあります。
ここが使用できないと東雲通り、県道64号などの混雑する道路へ迂回する必要が出てきます。迂回したとしても1分程度のタイムロスなのですが、脳梗塞・脳出血などの1分1秒を争う疾患の専門病院なだけに軽視はできません。交通事故が起きた影響で、直進を禁止にすべきかどうかは様々なデメリットを熟慮したうえで決めるべきことだと感じます。
国内・国外での路面電車事故
実際にライトライン開業後も国内の路面電車で大きな事故は起きています。100年近く路面電車が運用されているような地域でも、事故は起きてしまうものなのです。無事故は難しいにしても、対策を講じて事故頻度を減らしていきたいですね。
接触事故(万葉線)
脱線事故(函館市電)
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運転手がいない状態で交差点内に侵入(札幌市電)
バスと路面電車が衝突・脱線(広島市電)
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脱線事故(イギリス)
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すこし古い記事ではありますが、速度の遅いトラムでも多大な被害を出す可能性は十分にあるのです。ライトラインは試運転中に脱線を1度経験しており、そこで様々な修正を加えた結果現在まで脱線なく運用できています。今後も安全性をいかに維持・向上していくかが一つの課題となります。
おわりに
今後も事故頻度を減らすために交通ルールの周知や運転マナーの向上は不可欠でしょう。さらに求められることとしては運転が適さない高齢者がLRT利用に切り替えることも重要と考えます。宇都宮市では毎年75歳以上の高齢者に交通系ICカードtotraに1万円分チャージ額を配布しており、少しづつ効果が出てきているようです。つい先日もLRT沿線で高齢者ドライバーがスーパーに衝突する事故が起きていますので、免許の自主返納が必要な方も多い事でしょう。
LRTが開通してからは鬼怒通りの交通マナーは以前より向上したように思えます。LRTが並走することもあり、ドライバーが普段より注意を払って運転するようになったのでしょうか。安全に利用できる交通手段としてライトラインがさらに普及していくといいですね。